2015年7月25日土曜日

山崎晃資「高機能広汎性発達障害の診断マニュアルと精神医学的併存症に関する研究」を読む(その0)

発達障害と犯罪との間に、どのような関係があるか、研究報告書の原文が特に隠蔽されることもなく見られるようになっているのでちょっとずつ読んでみましょう。

何度も書いてますが、私は
  • 発達障害特性を持つ子ども/大人で犯罪に至るケースは存在する。
  • ただし、発達障害特性のありかたは個人差がものすごく大きいため、割合は不明だが、全員ではなく一部である。
  • 発達障害特性=犯罪者予備軍と見なすようなイメージが強まってしまうと、適切な早期発見・早期療育をむしろ妨げる事になるため、「一部を全部」と捉えるような見方は適切に抑制されるべき。
  • このように一部を全部の見方に釘を刺すために、私を含め、「『発達障害=(全員が)犯罪者』ではない!」という主張をする人は少なからずいるにしても、それは「発達障害児・者は犯罪を行わない!」という意味では決してない。そう言っているかのように曲解をする人がいるようだけど。
  • 犯罪に至る一部のケースについては、発達の凸凹により社会適応が困難という意味で、間違いなく発達障害特性を持っているのであり、決して発達障害児・者の「例外」などではない。
  • そのため、十把一絡げにするのではなく、本人の凸凹の形に合わせた「療育」を早期から行っていくことで、成長の後押し、犯罪の予防は可能なはず。
という考えです。



さて、ときどき取り上げられている報告書にこんなのがあります。

山崎晃資「高機能広汎性発達障害の診断マニュアルと精神医学的併存症に関する研究」『高機能広汎性発達障害にみられる反社会的行動の成員の解明と社会支援システムの構築に関する研究』平成17年度 研究報告書

これを読み解いていこうとおもったのですが、その前に研究の文脈から。



どういう文脈でなされた研究かというと、厚生労働科学研究費補助金の中の、「こころの健康科学研究経費」(社会・援護局障害保健福祉部企画課の所管)で、平成16年度平成17年度平成18年度の3年度にわたって助成された「高機能広汎性発達障害にみられる反社会的行動の成因の解明と社会支援システムの構築に関する研究」の分担研究(一部ってこと)です。

上記の年度のリンクを辿るとわかるように、この「こころの健康科学研究経費」というのは別に発達障害に限った研究助成ではなく、広く精神科領域全般に渡る研究助成です。なお、平成22年度からは、同じ所管課の研究経費は「障害者対策総合研究経費」というものに代わっています。

研究費の助成はどれぐらいの額かということは上記で公表されていて、平成16年度は1563万円、17年度は1485万円、18年度も1485万円です。世間一般の感覚からすると目が飛び出るような額だと思いますが、他の研究、たとえば18年度の「医療観察法による医療提供のあり方に関する研究」は5000万円出ています。端数の細かさからは、ざっくり研究経費をせしめておけ!みたいなことが多い研究業界ですが、ずいぶん細かく予算計画を立てて申請したんだろうなあと感じさせられます。


「厚労省が予算を出していたのを打ち切った!これは不都合な真実を隠すためだ!」みたいなことをいう人もいるかもしれませんね。上記のリンクをちょっとでも辿ればわかるように、普通の人が知らないところで、将来を見据えていろんな研究がなされています。その中のあるテーマがある年度で終わっているからといって、国の陰謀を説くのは無理筋ではないでしょうか。

また、「発達障害と犯罪の関係性が見えてきたから慌ててそれ以降の研究を自粛しているんだ!」というような陰謀論を説く人もいるようですね。こうした科研費の申請は、この場合は厚労省、ほかには日本学術振興会などが大枠の条件を提示して募集して、それに対して研究者が「◯◯の意義がある研究を、□□のようにしていくつもりなので、△△の予算をください」と申請して、認可されたり落とされたりしてます。研究者が自分の研究したいことと、どんなテーマなら認可を受けやすいかということのすり合わせを行いながら申請を行う時にはあれこれ非常に苦心しています。「高機能広汎性発達障害にみられる反社会的行動の成因の解明と社会支援システムの構築に関する研究」という3年間のプロジェクトがすでに終わった後に、そことどう差別化していくか、どういう点を打ち出せば新奇性を認められて予算がとれるか、多分、多くの研究者の先生たちは、「発達障害者の一部はどうしても犯罪への親和性を持ってしまうリスクがあるから、早期発見・早期療育のための研究をしよう」という方向性でテーマを工夫されているのでしょう。たとえば、発達障害・情報支援センターの「厚生労働科学研究成果データベース」というページを見ると、18年度以降の研究助成の採択状況が見えます。

こうしたことを踏まえて、それでも「発達障害と犯罪の関係性を隠蔽している!」と考えたい人もいるのでしょう。ひと通りこの分担研究の中身を読んだ後にまたその議論に戻ってこられればと思います。(個人的には、そんなアタリマエのことを針小棒大に騒ぎ立てる人の気はしれないので、最後には忘れてるかもしれません)



さて、なかなか中身に入れなかったのですが、せめて研究目的だけでも見ておきましょう。

青少年の反社会的行動(犯罪)が起きるたびに、加害者である青少年の心理状態が安易に論評され、行為障害、解離性障害、境界例、さらにはHPDDやASなどの診断名分類が新聞紙上をにぎわす。このためにHPDD(引用者註:高機能広汎性発達障害)の人々およびその家族は誤解・無理解・差別に悩まされ続け、時にはその人格をも否定されるような極論に曝されている。(略)
 本分担研究では児童青年精神科医療の観点から問題の究明を試み、HPDDおよびASの診断マニュアルを整理し、併せて乳幼児期からの早期発見・早期療育とそれによる反社会的行動の予防的研究についても検討することにした。
ということになってます。また時間が取れたら、少しずつ書いていきましょう。

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