さて、この分担研究はさらに5つの研究を含んでいるので、1つずつ見ていきます。論文のお作法として、「研究方法」、「研究結果」、「考察」、「結論」と並んでいるのですが、それぞれの研究ごとこの方法・結果・考察・結論をまとめるのではなくて、全体で節割されてるので、やや読みにくいですね。なので、まず研究1「高機能広汎性発達障害の人々への精神科医療の対応」から見ていきます。
対象は平成16年度に東京都発達障害者支援センターで山崎先生が関わった442名、その中で特に「著しい反社会的行動を示した28例」、中でも3例の事例研究をしたというもの。このセンターは開設が平成15年なので、まだ開設したて、世間での発達障害のイメージ・理解も今とはまだだいぶ違う時期なことに注意は必要ですね。
山崎先生が関わった442名、というのが相談ケースの中でも一部の特に重症度が重い、または軽いケースという可能性があるので、センター全体の業務統計を調べてみます。残念ながら平成17年度以降に限られてしまうものの、発達障害情報・支援センターで全国の発達障害者支援センターの相談件数統計が見られました。
17年度 | 18年度 | 19年度 | ・・・ | 25年度 | |
---|---|---|---|---|---|
相談支援 | 451 | 616 | 834 | ・・・ | 2395 |
発達支援 | 83 | 93 | 86 | ・・・ | 286 |
就労支援 | 17 | 27 | 27 | ・・・ | 58 |
研究結果は①~④に分けられており、①は相談者の年齢分布、②は18歳以上の相談者とその医学的診断、③は家族・本人・支援者からの相談内容、④は「著しい反社会的行動」を示した29例について、となっています。まず、①の年齢分布について、パーセンテージを実数に直しつつ表に起こしてみます。
6歳未満 | 小学生 | 中学生 | 10歳代後半 | 20歳代 | 30歳代 | 40歳代 | 50歳代以上 |
---|---|---|---|---|---|---|---|
20.1% | 16.1% | 11.1% | a % | 23.3% | 12.7% | c % | 2.0% |
89人 | 71人 | 49人 | b 人 | 103人 | 56人 | d 人 | 9人 |
次に②を見ると頭を抱えることになります。いきなり、「18歳以上の対象者で…」というような言葉が出てきますが、18歳以上の実数がわかりません。しかたない。ひとまずほっておきます。知的障害の有り・無し・不明に分けた上で、診断名の有無を挙げていますね。これ、表に起こしにくいですが、無理やり起こしてみましょう。
知的障害有り | 発達障害、ほか | 未受診・未診断 | |
---|---|---|---|
21.3% | 4.1% | ||
知的障害無し | HPDD | ADHD、LD、ほか | 未受診・未診断 |
22.3% | 18.8% | 24.4% | |
知的障害不明 | 全数 | ||
9.1% |
よし、じゃあ、168~235の整数について、4.1%、9.1%、18.8%、21.3%、22.3%、24.4%の人数を計算して四捨五入して整数化、それをまたパーセンテージに直すのをエクセル力技でやってみれば絞れるかもしれない。っていうことでやってみたら、197人の時のみ、6個のパーセンテージ値がちゃんと一致することがわかったので、「18歳以上」は197人と見なして多分間違いないでしょう。そうすると、上記表3をパーセンテージ値から実数に変えられます。
知的障害有り | 発達障害、ほか | 未受診・未診断 | |
---|---|---|---|
42人 | 8人 | ||
知的障害無し | HPDD | ADHD、LD、ほか | 未受診・未診断 |
44人 | 37人 | 48人 | |
知的障害不明 | 全数 | ||
18人 |
- 就労できない
- こだわりや自分本位の生活の仕方のために、他の家族との関係が悪化している
- 家庭内暴力により家庭生活が著しく不安定な状態に陥っている
- 親亡き後の将来が不安
- 発達障害専門の医療機関を紹介してほしい
- 学校や職場などでの人づきあいの仕方を教えて欲しい
- 自分自身の不安や葛藤状態への対処法について相談したい
- 年金や障害者手帳の取得方法を教えて貰いたい
- 親亡き後の生活について不安である
- 本人との意思疎通ができにくい
- こだわりやパニックなどへの対応が困難である
- 受け皿となる場や人がない
- 親子関係の調整が困難である
さて、最後の④。
442例中、著しい反社会的行動を示したのは29例(6.5%)であり、この中で、HPDDまたはASと診断されたのが11例(38.9%)、精神科病院に入院したことのあるのが8例(27.6%)であった。ということなんですが、この時、この29例というのは、さっきの「18歳以上」ということに限定されるのかどうかが不明で解釈に困ります。言い方を変えると、「18歳以上」については診断名がついている人のパーセンテージが明記され、そこから実数が計算できるのに対して、18歳未満の人についてはそもそも診断名の確認がされているかどうかもわかりません。この辺がややこしいので、この同じ文献を読んだ井出氏の昔の記事ではこんな風に書かれています。
442人の中で高機能広汎性発達障害の診断が下りているのは22.3%なので人数に直すと99人。その中で著しい反社会的行動が見られたのが11例。これを割ってみると、高機能広汎性発達障害者の11.1%に反社会的行動が見られたということになる。目安としては1割というところになる。7年も前の記事を捕まえてどうこう言うつもりはないんですが、少なくとも、「442人の中で高機能広汎性発達障害の診断が下りているのは22.3%なので人数に直すと99人」という点は誤読だと思われます。22.3%というのは原文では18歳以上の相談者についての割合と読めますので。上記のようにめんどくさい計算を経て出した、18歳以上でHPDDの診断がついている人は44人(表4.参照)、という数は扱えても、「18歳未満で高機能広汎性発達障害の診断が下りている人数」は不明、としかしようがないと思います。
ただ、この点について、原文の論運びを好意的(?)に解釈して、HPDDの診断の有無について明記されていない18歳未満については集計されていないと見るならば、②で記されている22.3%(44人)のHPDD診断者のうち、④11人が「著しい反社会的行動」を示し、またHPDDの診断がついていない人についても18人が「著しい反社会的行動」を示した、と読むことはできるかもしれません。やや乱暴ですが。あるいは、「年齢層を問わず、相談者のうちで高機能広汎性発達障害と診断される人は22.3%程度である」という井出氏の読み方も実態に近い可能性はあります。ややこしいので箇条書きにしてみます(表にするのを諦めた)
- 442名中、29例(6.5%)が「著しい反社会的行動」を示している。
- 442名のうち、18歳以上は197名、18歳以上でHPDDの診断がされているのは44人(22.3%)
- 29例の内訳としては、HPDDまたはASと診断されているのが11例(38.9%)
- 仮に、i.「著しい反社会的行動を示しているのはすべて18歳以上のケースである」、またはii.「年齢層を問わず、相談者のうちで高機能広汎性発達障害と診断される人は22.3%程度である」のどちらかが当てはまれば、単純に上記の22.3%と、38.9%を比較することはできるかもしれない
- つまり、22.3%しかいないはずのHPDDの人が、反社会的行動を示している人の中では38.9%であり、HPDDの診断があると反社会的行動に至る可能性が比較的高いと言えるのではないか
- ただし、HPDDの診断がついているといえど、反社会的行動に至っていない人の方が多いこと、HPDDの診断がついていなくても、反社会的行動に困って発達障害者支援センターに相談に来たケースがいることも事実である
さて、長くなったので一回切って続きはその2へ。
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